第180回 バランス

楽器たち
楽器たち

父親の代から続く工務店を継いだ高校時代からの親友がいます。
彼の専門は「鉄の溶接」。鉄を超高熱の溶接技術で加工し、制作するのが主な仕事です。そして彼の会社は、火災の時に天井から水を噴射するスプリンクラーを作る仕事が最もメインの仕事だと聞きました。

工場に行って彼の「作品」を見せてもらいました。
多くの人がスプリンクラーを見たことがあるかと思うのですが、その構造を
考えた事のある人は私を含めそれほど多くはいないのではないでしょうか。
簡単に説明すると、天井を縦横に走る鉄のパイプに穴が開いていて、
その穴に一つ一つ水が出るキャップが付いているというような構造です。
しかし、そのキャップはパイプと一体化しているわけではなく、ひとつひとつの
キャップが溶接により接合されているのです。

しかもその特殊用途ゆえ、非常時にはそのキャップに物凄い水圧がかかるわけで、
その接合がもし甘いと、キャップは吹っ飛んでしまうということを、彼の説明で知り
「ああ、確かにその通りだ」と納得しました。

彼は自らが長い年月をかけて習得した自らの溶接技術に確固たる自信と責任、
誇りをもっていました。
私は全くといっていいほど溶接技術に疎いのですが、その技術こそが簡単には
マネのできないもので、それが彼の奥さんと可愛い2人の娘という家族を支えて
いるのです。
完璧なまでに同じクオリティで何千個という鉄のキャップを溶接する。
整然と工場に並んだキャップを見て、彼のプロフェッショナリズムを感じました。

しかしそんな彼は、一方でその技術を活かして「鉄」で個性的なオブジェを創る
「アーティスト」でもあります。
しかもその領域はオブジェだけにとどまらず「楽器」にまで拡大してきており、
その実績は横須賀美術館のイベントで、メインエントランスに飾られるほどの
クオリティのものなのです。

細部をよく見ると、繊細でありながら、随所にアーティスティックな大胆さを
兼ね備えた作風が見てとれます。
聞くと、通勤の時間中ほとんど自分の頭のイメージを絵に起こしているそうです。
また、鉄でできた打楽器に「音階」を付けることが現在の課題だそうです。

限りなく画一的で均一のとれた品質の求められる仕事と、それとは別に存分に
自らのクリエイティブを発揮できる仕事。

どちらもクオリティが高く、そのバランスがカッコいいなあと。
彼の作ったサイズの違う楽器を眺めながら、私自身のスタイルも、そんなふうに両方の色をハッキリ出せるようにありたいなあと感じたのでありました。

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